他の金属に比べ軽くて加工性に優れ、単位重量当たりの強度も高いアルミは、硬貨や家庭用品といった身近なものから建材、精密機械の部品までさまざまな用途・製品に使われています。
今回は、そんなアルミ材へのネジ穴の開け方と注意点について、素材としてのアルミの種類や特徴、また弱点克服のため加工時に取るべき対策等と一緒に理解していきましょう。
目次
アルミ素材の基本的な特徴、種類について
正式には「アルミニウム」という名称のアルミは、主に以下のような特性を持つ金属です。
- 比重が2.7と鉄や銅のおよそ1/3しかないため、非常に軽い
- 熱しやすく冷めやすい性質があり、熱伝導率や放熱性が高い
- 低温環境に強く、液体窒素や液体酸素の極低温下でも靭性が大きい
- 非磁性体の金属であるため磁気を帯びず、磁場に影響されない
- 比重が低い分、導電性が高く、銅の2倍の電流を通すことができる
- 無害、無臭で毒性がないため、人体や土壌、食料品等を害さない
- 純度の高いものほど反射性が高く、光や熱、電磁波を反射する
- 他の金属と配合することにより、加工性や強度の高さが付与できる
- 空気中で酸化被膜を形成するため、錆びや腐食防止効果が高い
- 他の金属に比べて融点が低いため、溶かして再利用がしやすい
またアルミには、純度が高いほど軽くて柔らかく、加工が難しくなるという特徴もあります。
そのため、金属加工を行う際に用いられるアルミの板材・管材のほとんどは、他の金属を添加したアルミ合金なのです。
各種のアルミ合金が持つ特徴は、添加する金属の種類・量によって大きく変わってきます。
そこで以下からは、1000〜7000番台までの4桁の数字で分類され、番号で表記される各種アルミニウム合金の概要について見ていきましょう。
1000番手系アルミニウム合金の特徴
導電性や熱伝導性、耐食性に優れた純度99%以上のアルミで、純アルミニウムに該当します。
他の合金に比べて強度が低く、粘り気が高いのが特徴。キズや凹みが出来やすく、切削加工時の切りくずも発生しやすいため、加工にはあまり向きません。
2000番手系アルミニウム合金の特徴
銅を加え、純アルミに強度をプラスしたアルミニウム合金です。高い強度を持つことで知られる「ジュラルミン」が分類される番手で、この種類のアルミは切削加工に適性があります。
ただし銅を加えている分、耐食性が低くなり、溶接割れが発生しやすいため注意が必要です。
3000番手系アルミニウム合金の特徴
マンガンやマグネシウムを加え、耐食性を維持しながら強度を高めたアルミニウム合金です。
金属を削って製品を作る切削加工よりも、溶かして製品の形状へと変えていく成形加工の素材になることが多い種類で、身近なアルミ缶の材料としても使われています。
4000番手系アルミニウム合金の特徴
アルミにシリコンを加え、耐熱性や耐摩耗性の特性を加えたアルミニウム合金です。熱膨張も少ないことから、特に鍛造ピストン等に使用されます。
5000番手系アルミニウム合金の特徴
マグネシウムを添加し、耐食性と強度を高めたアルミニウム合金です。他の合金と比べて加工しやすいと言われており、溶接や切削等、さまざまな加工を施して船舶や車両に使用します。
6000番手系アルミニウム合金の特徴
マグネシウムとシリコンを加えた、5000番手系よりさらに高い強度・耐食性を持つ種類です。
溶接加工に向かないという弱点もありますが、その高い強度や押出成型性の高さから、建材や構造材として使われるケースが多いとされます。
7000番手系アルミニウム合金の特徴
亜鉛とマグネシウムを添加し、熱処理による硬化を施したアルミニウム合金です。最も強度の高いアルミ合金だと言われる種類で、2000番台のジュラルミンを凌ぐ強度を誇り「超々ジュラルミン」と呼ばれるA7075を含んでいます。
代表的な使用用途としては、車や飛行機、スポーツ用品の部品や、スマートフォンの筐体等が挙げられるでしょう。
アルミへのネジ穴の開け方と手順
ボルトとも呼ばれる雄ねじの頭部の凹み、または雄ねじを受ける雌ねじの穴の内側に付けられたらせん状の溝のことを、ネジ穴と呼びます。このうち、アルミにネジ穴を開ける場合には、アルミ板等にねじ山の付いた穴をあける後者のケースが多いでしょう。
アルミニウムをはじめ、金属の板や管へのネジ穴の開け方は、おおよそ以下の通りです。
- ケガキ針やポンチとハンマーで、ネジ穴を開ける位置をへこませて印を付ける
- ボール盤や電動ドリルを用い、使用予定の雄ねじの径・深さに合わせた下穴をあける
- 面取りカッター、または大きめのドリルを用いて穴入口のバリを取っておく
- 穴あけ加工で発生した切りくずを取り除き、できた下穴に切削油を注入する
- ボール盤、またはタップハンドルにねじ切りを行うためのタップを取り付け、垂直方向に力を込めながら回し、穴の中にネジ山を作っていく
つまり、アルミ材にネジ穴を開けるには、まず穴あけ加工で下穴を開けてからタップ加工で穴の内部にネジ山を作り、ネジ穴にする必要があるのです。
なお穴あけ加工、タップ加工は、どちらも材料を削って形を整える切削加工となります。
●関連記事:「穴あけ加工とは?加工の種類や方法、鋼材によって変わる注意点について」
アルミは本来、穴あけやタップ加工には不向きな素材
金属の中でも柔らかいアルミは、切削性が高い(=削って成形しやすい)とされる種類です。
しかしその一方で、熱伝導率と延性、粘り気が高いことからタップ加工時には工具への溶着が起こりやすく、加工が難しいという側面もあります。
5000番手系等、比較的切削加工がしやすいアルミ合金も存在しますが、アルミにタップ加工を施すには、材料の特性に配慮した対策を取る必要があると理解しておきましょう。
●関連記事:「アルミの曲げ加工は割れに注意!アルミニウムの特徴や曲げ方について」
アルミにネジ穴を開ける際の注意点
材料としての弱点を克服し、アルミに精度の高いネジ穴を開けるには、どのようなポイントに注意すれば良いのでしょうか。
以下に、アルミへのネジ穴の開け方と一緒に知っておくべきタップ加工時の注意点を2つ紹介します。
工具とアルミの溶着を予防する必要がある
タップ加工のような切削加工における溶着とは、材料や切りくずが切削で生じる抵抗・摩擦の熱によって溶け、工具に付着してしまう現象のことです。溶着は、どのような材料の加工時にも発生する可能性がありますが、延性の高いアルミでは、特に発生リスクが高くなります。
タップ加工中に溶着が起こると構成刃先(工具に付着した切りくずが切れ刃として作用すること)が起こり、ネジ穴の加工精度が損なわれます。
アルミにネジ穴を開ける際には、タップ加工中の溶着対策が不可欠だと言えるでしょう。
タップ加工中のバリや工具の破損にも注意が必要
溶着の発生時には、構成刃先だけでなく溶けたアルミが仕上げ面に付着したり、大量にバリが残ることによる加工精度の低下や生産コストの増大も懸念されます。
また、溶けたアルミと工具が穴の中で接着・固定されてしまうケースも考えられるでしょう。
そうなると抜き取る時に工具やネジ穴が破損したり、タップが折れる可能性もあるため、アルミの加工時にはネジ穴とタップの両方の状態に気を配る必要があるのです。
アルミにネジ穴を開ける際に取るべき対策
次に、溶着を起こさないようにするためアルミにネジ穴を開ける際に取るべき対策を、具体的に4つ紹介していきます。
アルミの溶着予防策①こまめに切りくずを取り除く
まずは、溶着の原因となるアルミの切りくずを、穴からこまめに取り出すようにしましょう。
タップ加工時には、こまめにエアブローをかけて切粉を出すようにする他、特に細い穴をねじ切りする際には一回あたりの切り込み量を調整することをおすすめします。
アルミの溶着予防策②加工の際、切削油を多めに使用する
また、タップ加工の際に注入する切削油の量を増やすのもアルミの溶着予防に役立ちます。
切削加工の際に使う切削油(切削剤)には、加工中の抵抗や摩擦、またこれに伴う熱を下げる他、切りくずを洗い流す作用もあります。アルミは他の金属よりも比重が軽く、切削油に浮かびやすい性質もあるため、高い溶着予防効果が期待できるでしょう。
なお、切削加工の際に使われる切削油には以下のような種類があります。用途や加工する材料の性質に合わせて、適切なものを選ぶようにしてください。
- 鉱物油:切削特性と安定性に優れ、タップ加工時に一般的に使用される種類
- 合成切削油:安定性には優れているものの、機械への負荷がやや高い種類
- 準合成切削油:切削特性に優れ、さまざまな材質の加工時に使用が推奨される種類
- 植物ベースオイル:タップ加工用のエマルジョンの中で最も切削特性が高い種類
- ストレートオイル:安定性が高く、旋盤加工や小型部品の製造時に使われる種類
アルミの溶着予防策③タップの回転速度を上げる
アルミのタップ加工時に切削速度が遅すぎると、作業効率が低下するだけでなく抵抗が増して温度が上がり、溶着が起こりやすくなると言われています。
溶着を予防するためにも、アルミにネジ穴を開ける際のタップの回転速度は速めに設定するようにしてください。
アルミの溶着予防策④アルミに適したタップを使う
ネジ穴を開ける際に使う切削工具であるタップには、以下のような種類があります。
- ハンドタップ
- スパイラルタップ
- ポイントタップ
- ロールタップ 等
このうち、溶着が起こりやすいアルミにネジ穴を開ける際に適したタップとしては、転造式で金属に圧力をかけてネジ山を作り、切りくずを出さないロールタップでしょう。
またタップ以外の工具では、切りくずを細かく排出するねじ切りカッターもおすすめです。
ただし、ロールタップの使用には強い締め付けトルクが必要となるため、手作業で加工するのには向いていません。またねじ切りカッターの使用にも、フライス盤やマシニングセンタ等の工作機械が必要です。
アルミのネジ穴の開け方として、回転速度が調整しやすく工具の選択肢が広がる工作機械の使用が望ましいということは、覚えておくと良いでしょう。
●関連記事:「タップ加工のやり方とは?タップの種類や手順について解説」
鋼管加工のベストアドバイザー宮脇鋼管へ
宮脇鋼管は、鋼管加工のスペシャリストとして、お客様にとってのベストアンサーを提供いたします。ロットの大小に関わらず即納提案し、加工のすべてを品質管理いたしますのでご安心ください。VE提案から単品図の作成まで実現可能です。
鉄の鋼管をお客様がすぐに使える状態の製品に加工してお届けすることができる新しい加工サービスも実施しております。
- 難しい加工に対応できるか?
- まずは在庫を確認したい
- 鋼材の価格と納期が知りたい
- 詳細な見積もりが欲しい
など、
鋼管加工の総合技術商社として、最新の鋼構造加工システムを提案する宮脇鋼管へお問い合わせください。